原田マハ『本日は、お日柄もよく』 たった一度のスピーチで、世界は変わる

困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。

かつて、ここまで心に染み渡る励ましの言葉が存在しただろうか。

「頑張れ!」「負けるな!」「大丈夫」

当たり障りのない(かといって悪気があるわけでもない)そんな言葉をいくつも並べ立てても、惑う人の心は救えない。

それでも、言葉の持つ力で人を救うことはできるし、言葉は世界だって変えられる。そう信じることができる物語が、原田マハの小説『本日は、お日柄もよく』には描かれている。

心を動かす言葉を紡ぐ『スピーチライター』の物語

題材となっているのは、あまり馴染みのない職業「スピーチライター」。リンカーン、キング牧師、スティーブ・ジョブズ……際立ったスピーチで世界を変えた人たちの裏には、血湧き肉躍る言葉を紡ぎ出し、聴衆の心を奮い立たせる語り口を伝授する人がいる。それがスピーチライターだ。

物語の主人公・OLの二ノ宮こと葉(27)は、そんな言葉とは無関係に人生を過ごす、しがない会社員。想いを寄せる幼馴染の結婚式に出席したある日、涙が溢れるような感動のスピーチに出会う。

祝辞を述べたのは、伝説のスピーチライターとして業界で一目置かれる久遠久美。言葉の持つ力に魅せられたこと葉は、居ても立ってもいられず、迷わず久遠の弟子となることを決意する。

人の心を動かす仕事に出逢い、はじめて働くことの楽しさを知ったこと葉。久美の教えを学ぶ内に、やがて政権交代を掲げ奮起する野党のスピーチライターに抜擢。そして物語は佳境を迎えるーー。

それでも、言葉は世界を変えられる

冒頭で引用した言葉は、この物語のキーパーソンとなる、ある人物によって語られる。どうやって生み出されたのか、どんなシーンで語られるのか…。すこしでも言葉に興味を持つ人なら、気になって仕方ないはず。

自信を持って言える。つらいとき、くじけそうなとき、折にふれて思い出す大切な言葉となるであろうことを。

だから、ぜひ手にとってみてほしい。山本周五郎賞受賞作『楽園のカンヴァス』で魅せた確かな筆力が織りなす珠玉の言葉の数々は、ウソとデマが溢れ言葉の力が失われつつある今の時代にあってなお、光り輝いている。

スポンサーリンク
スポンサードリンク
スポンサーリンク
スポンサードリンク