秋吉理香子『暗黒女子』 人生の主人公になりたい。そのために、どれだけ手を汚す覚悟がある?

暗黒女子

スポンサーリンク
スポンサードリンク

イヤミスの真骨頂!

イヤミス。それはあまりに酷いエンディングを迎え、読後に何とも言えないイヤな気持ちがつきまとう小説【イヤ〜な気分にさせられるミステリー】のこと。

松たか子主演で映画化された湊かなえの「告白」や当ブログでも絶賛した米澤穂信の「ボトルネック」、真梨幸子「殺人鬼フジコの衝動」などが代表作として挙げられます。なぜイヤな気分になる小説をわざわざ読むのかという質問には、以下の過去記事で答えていますので割愛します。興味のある方はお読みください。

共感や感情移入なんていらない。「無難でわかりやすい、つまらない物語」に染まらない人生の楽しみ方

イヤミス

本作「暗黒女子」も、間違いなくイヤミスの系譜に連なる傑作です。このおどろおどろしさといい、洗練された悪意といい、まさにイヤミス。思春期の少女たちが持つ虚栄心と美意識、それに悪気を1ミリも感じさせない自己中心的な言動が、まわりまわって美しく感じるほど。

詳しくは先で述べるとして、先に簡単なあらすじを載せておきます。

あらすじ

聖母女子高等学院で、一番美しく一番カリスマ性のある女生徒が死んだ。今晩学校に集められたのは、彼女を殺したと噂される、同じ文学サークルの「容疑者」たち。彼女たちは一人ずつ、自分が推理した彼女の死の真相を発表することに。会は「告発」の場となり、うら若き容疑者たちの「信じられない姿」が明かされていき――。全ての予想を裏切る黒い結末まで、一気読み必至!

双葉社公式ホームページより

第61回文学サークル定例会を始めます。

キリスト教系の女子校「聖母女子高等学院」にある文学サークルを舞台に、カリスマ的な美しさと聡明さを備えた会長・白石いつみの死を巡る推理合戦が繰り広げられるという物語。

この文学サークルでは、キャンドル以外の照明を落とし、各自が持ち寄った食材(食材じゃなくても清潔であれば良し)を煮込んだ闇鍋を囲みながら行なう小説の朗読イベントが定期的に開催される。

暗黒女子

朗読する題材は自由に選べたものの、今回に限ってはサークルの会長であったいつみの死について思うことを朗読することに決まった。決めたのはいつみの無二の親友・澄川小百合。校舎から飛び降りたとされるいつみの死には不可解なところがいくつかあり、それが自殺であったのか他殺であったのかもはっきりしていない。

サークルのメンバーは皆、各自なりにいつみのことをよく知っているはず。それでは各自が思う事件の真相を語ってみるのはどうか。少しでも私たちが大好きだったいつみの死に近づくことができるかもしれないのだから。

そういった趣旨で開催された第61回定例会。

澄川小百合によるルール説明を終え、1年生の二谷美礼から朗読が始まる・・・。

暗黒女子

きれいなバラには、いや、すずらんには…

最近子どもや女子による不穏なミステリー小説ばかり読んでいたところに、この大物の登場。もう表紙からすでに不穏な空気を醸し出しています。タイトルも「暗黒女子」ですからね、イヤな気分にならない方がどうかしています。

先に紹介した名簿の順に自分が思ういつみの死の真相が語られるわけですが、ひとりひとりが全く違う結末を想像していることがわかり、読者を混乱に陥れようとします。ひとつずつ齟齬を潰していっても残るのはバラバラな真相だけ。全く先の読めない展開に狂いそうになってきます。

暗黒女子

高潔な女子校を舞台にしていることもあり、語り口調は丁寧で品を感じさせる生徒ばかり(1名を除く)。舞台となる文学サークルもいわゆるサロンの様相で、アールグレイを飲みながら優雅に読書を楽しむイメージなんですね。

それだけに事件が巻き起こす「歪み」の質は、半端なくグロテスクに描かれます。きれいなバラには刺があると言いますが、美しい女生徒たちの美しく残酷なエゴイズムがこれほどの悪意をまき散らすことになるなんて・・・。これだからイヤミスは・・・おもしろい!

あなたの中にも暗黒女子の火種が燻っている

人はわかりやすい悪意をそれほど恐れません。想像の範囲内ですし、想定の範囲内であることがほとんどですからね。しかし本作での悪意は生半可なものではない。あまりに自分本位なもの故に、自分という人間の負の面を表沙汰にされたような気にもなります。

というのも、過剰ではありますがいつみや小百合の持つ悪意の断片は、思春期の少女なら誰もが持っているからですね(場合によっては少年も持ち得るかもしれません)。とてもじゃないが表には出せない包み隠しておきたい本心、それを、この物語では暴かれます。

「暗黒女子」というワードにイヤミスの匂いを感じてニヤリとしてしまう自分の中にも、暗黒女子の火種が燻っていることに気付かされるから、気をつけて読んでください。

暗黒女子

スポンサーリンク
スポンサードリンク
スポンサーリンク
スポンサードリンク