松田青子『スタッキング可能』 言葉遊びにとどまらない、個人の代替可能性についての追求。

スタッキング可能

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〈あなた〉と〈私〉は入れ替え可能?

とんでもない本を読んでしまいました。

もともと岸本佐知子さんの文体が好きで、「スタッキング可能」の帯に岸本佐知子さんの紹介文があったことから気になって読んだのですが、この読後感は今までにない不思議な気持ち。ちなみにこう紹介されていました。

「この毒、この笑い、このリズム。みんなも癖になるといいのに。」(岸本佐知子)

6編の小説がおさめられており、タイトルがすでに面白い。

①スタッキング可能
②ウォータープルーフ嘘ばっかり!
③マーガレットは植える
④ウォータープルーフ嘘ばっかり!
⑤もうすぐ結婚する女
⑥ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない!

とくに②④⑥の流れがすばらしい!

ウォータープルーフ嘘ばっかり!

先にこの3編について話しておくと、AとBという2人の30歳をこえた女性による、“女性にまつわる”超どうでもいいショートショートが繰り広げられるだけというお話です(ちなみに話が進むとCやDも出てきます)。

どちらかというと、小説というより演劇っぽい。岸本さんの紹介文にあった「リズム」の良さが活きていて、掛け合い漫才のような成り立ち。2人の掛け合いの合間にタイトルのセリフが挟み込まれ、これは音読した方が絶対に面白い。私は思わず口に出して読みましたから。

具体的にどんな会話がなされているかというと、

・元来「あずき大」と表現していた保湿クリームや化粧下地の使用分量が、いつの間にか「パール1個分」に変化していたことについて。

・飲食店で店員同士が”あいのり”状態の中、ひとりでご飯食べなければならない苦痛と、2人の歴史的瞬間に立ち会いたくない件について。

・外見や年恰好、着ているものはそれぞれ違えど、皆等しくヒートテックを内側に着ているという事実を共有した時の、その場のなごみ方には見過ごせない力があるという件について。

など。心底どうでもいいんですが、このやり取りの面白さは異常。

スタッキング可能

・・・さて、そろそろ問題の表題作を紹介します。タイトルに使われている“スタッキング”とは、積み重ねるという意味。“スタッキング可能”は、”積み重ね可能”っていうことになりますね。では何が積み重ねられるのでしょう?

舞台はあるオフィスビル。1章ごとにエレベーターの階表示があるのがわかりやすいです。つまりランプが点灯しているフロアの話になっているわけですね。いろんなフロアで繰り広げられる話そのものは、あまり重要ではありません。重要なのは登場人物の名前。

4F・・・E川、F川、G川、L川、H川
5F・・・A田、B田、C田、D田
6F・・・B野、E野、F野、G野
7F・・・A山、B山、D山
10F・・・C木、L木
11F・・・A村、H村

一例ですが、こんな風に登場人物は書かれています。短編なのに、こんなに多くの記号みたいな名前の登場人物がいたら覚えられない!と思うかもしれませんが、そこは大丈夫。

なぜなら、同じアルファベットの人物は同型・同類の人間として描かれているからです。おそらく各フロアは関連会社どうしだったり、同じ会社の別部署だったりするようですが、同じアルファベットの人物は性格や思考、立ち位置なんかも似通っています。

人間の代替可能性について

この設定からわかるのは、“スタッキング可能”のキャッチコピー、『〈あなた〉と〈私〉は入れ替え可能?』が問われているということでしょう。一見個性的に見える登場人物も、突き詰めてみれば似たような人がどこにでもいるってこと。人間の取り替え可能性についての追求がテーマなんだと思いました。

スタッキング可能

作中のアルファベットが同じ人物を入れ替えて読んでみても、なんら違和感がないようになっています。この試みは本当に面白い。どこまでも無情で、どこまでも皮肉。それでも人は「個性」的であろうとする。誰かがつくった「個性」のパーツを身に纏っているだけとも知らずに。

スタッキング可能とは、似た椅子が重なっても結局似たような椅子、似たテーブルが重なっても結局似たようなテーブルでしかない。別の似た何かであっても問題なく代替可能ってことなんですね。なんだか、笑って泣けてきます。

みんな、誰かと違う「何か」になろうと頑張っている。それを非情に描きながらも、どこか諦めることによる救いのようなものも感じさせる、ただただ面白い本でした。

「これから結婚する女」というワードの破壊力!

5話目の“これから結婚する女”も、スタッキング可能と似たテイストを感じます。

というのも、登場人物のこれから結婚する女を、そのまま“これから結婚する女”と記して話が進むのですが、それにより読み手にも憧憬や祝福、軽蔑や嫉妬などの様々な思いを抱かせることとなり、つまりそれぞれの角度から見るとどう見えてくるのかということを追求しているように思えるからです。

この小説全体が、いわゆる実験小説のようなものなのかもしれませんね。

スタッキング可能

岸本佐知子さんのエッセイが好きな人や、森見登美彦さんや小田雅久仁さんのマジックリアリズム小説が好きな方なら、きっとハマると思いますよ。オススメです。

ちなみに、作者の名前は“まつだせいこ”ではなく、“まつだあおこ”さんなのでお間違えなく。


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