【映画化】佐藤健×宮崎あおい『世界から猫が消えたなら』 小説のフリした音楽。もしくは、音楽のフリした哲学書。

世界から猫が消えたなら

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考えるな、感じろ。この本はそんな音楽的小説

小説のフリした音楽。もしくは、音楽のフリした哲学書。

筆者がこの本を初めて読んだときの感想です。

もちろん実体としては小説なのですが、考えながら文章を読むのではなく、文章が耳から入ってくるように錯覚する不思議な本なのです。それもそのはず、筆者の川村元気さんは映画プロデューサーとして有名な方で、「告白」「電車男」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」などを手がけた俊英。

だからか、小説にしては言葉が軽い。といってもそれは悪い意味ではなく、ふわりと浮いた言葉が耳から入ってくるように軽いんですね。それにこれは映像をつくっている人ならではの感性なのかもしれません。頭に自然と映像が浮かんでくるんです。

世界から猫が消えたなら

映画では長ったらしい言葉で延々と状況説明するような真似はしません。短い言葉で物語るものです。だからかこの本は1〜2時間もあれば読めてしまう。しかし込められた思いは重厚で、哲学書としても読めてしまうのです。

文章が小さなセンテンスにまとめられているのは、メッセージアプリ・LINEで連載された初めての物語ということもあるのでしょう。そんな音楽的小説であるこの本は、一体どのような内容なのか。

まずはあらすじからご紹介します。

あらすじ

郵便配達員として働く三十歳の僕。ちょっと映画オタク。猫とふたり暮らし。そんな僕がある日突然、脳腫瘍で余命わずかであることを宣告される。

絶望的な気分で家に帰ってくると、自分とまったく同じ姿をした男が待っていた。その男は自分が悪魔だと言い、奇妙な取引を持ちかけてくる。

世界から猫が消えたなら

「この世界からひとつ何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得ることができる」

僕は生きるために、消すことを決めた。電話、映画、時計……そして、猫。僕の命と引き換えに、世界からモノが消えていく。僕と猫と陽気な悪魔の七日間が始まった。

二〇一三年本屋大賞ノミネートの感動作が、待望の文庫化、映画化!

Amazonより

世界から◯◯が消えたなら

齢30にして突然余命わずかと宣告された郵便配達員の主人公。

死を間近にし、主人公は何を望むのか。自分がいなくなっても何の支障もなく回る世界ならば、自分一人が消えたところで何も問題はないじゃないか!

主人公がそう投げやりな気持ちになるのも仕方ないことでしょう。しかし、もし延命の手段が何かあるとしたら、それにすがりたくなるのもわかる。

アロハシャツを着た悪魔が持ちかけてきた「この世界からひとつ何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得ることができる」という取引に、主人公は応じることになります。消すとは言葉通り、その何かの存在をまるごと無かったことにしてしまう、という意味です。しかも消せるものを自分で選べるわけではなく、悪魔が決めた何かを、消すかどうか決めなければならないのです。

世界から猫が消えたなら

最初に消したのは『チョコレート』。甘いもの好きにとってなくてはならない食べ物ですが、チョコレートがこの世界から消えてしまったとしても恐らくそんなに支障はないでしょう。何しろなくなって寂しいという感情を持つのは主人公だけで、彼以外の人間にはチョコレートが存在していたことすら知らない状態になるわけですから。

この物語のおもしろいところは、消す対象について思いを馳せるのは主人公だけということ。まわりの人間には何も影響はありません。「あったものが無くなった」わけではなく、「最初から存在しなかった」ことになるからですね。だから悲しみようもないし、困りようもない。

純粋に消す対象と向き合わなければならないのは「主人公だけ」なのです。良い意味で物語を小さく限定的にまとめるための、見事な設定だと思います。

何かを得るためには、何かを失わなくてはならない

ここで本書の目次を見てみましょう。

月曜日 悪魔がやってきた
火曜日 世界から電話が消えたなら
水曜日 世界から映画が消えたなら
木曜日 世界から時計が消えたなら
金曜日 世界から猫が消えたなら
土曜日 世界から僕が消えたなら
日曜日 さようならこの世界

チョコレートに続き、電話、映画、時計、そして猫・・・。

どれもこれも、主人公にとって何かしらの思い出が詰まっているものばかり。気軽に消してしまったチョコレートに続き、ひとつ消していくたび主人公は思い悩みます。正直なところ、消したとしても人生に支障なく生きていけるものばかりなのです。

世界から猫が消えたなら

しかし、ひとつ、またひとつ消していくたび、アイデンティティが崩れていくのを実感していく主人公。現在の自分を成り立たせているのは、自分が今まで学んできたことや経験してきたこと、関わってきた人や共に歩んできたものであることだと気付き、こうやって消していくことで自分は自分でなくなるのだと理解するんですね。

大事なものは失ってから気付くもの。人間は、そんな愚かな生き物。

主人公が、何を消して、何を消さなかったのか。
主人公は、何が本当に大事なことで、死ぬ前に何をしておかなければならなかったのか。

自分が取るべき行動、自分が生きている内にしなければならないことを知った主人公は、「もうすぐ自分が死ぬ」という事実をどう捉えたのでしょう?生きている内に、自分が大事にするべきことをハッキリさせ、しておかなければいけないことは済ませる。そうすれば、少しは死を肯定することができるのでしょうか?

少なくとも、世を儚んで、後悔に苛まれ、侮蔑と憤慨と屈辱に心を喰われながら死ななければならないことより、よっぽど前向きな死を遂げることができそうです。

何かを得るためには、何かを失わなくてはならない。

自分にとって本当に大事なものは何か。

人間が生きる目的とは、それを見つけることなのかもしれませんね。

世界から猫が消えたなら


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