朝井リョウ『武道館』生まれる前から決められていたルールに疑問を持つ。それはアイドルにあるまじき行為なのか?

朝井リョウ『武道館』

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アイドルとは何なのか?

待ちに待った朝井リョウの新刊は、アイドルがテーマだって!?

正直、かなり驚きました。しかもタイトルはストレートに『武道館』。2011年から続くアイドル戦国時代において、日本武道館は誰もが憧れる聖地。実際には足を運んだこともないような子たちでも、何とは無しに日本武道館でライブをすることがひとつのステータスになると思っています。これって不思議なことじゃないですか?

一昔前、といっても初代モーニング娘。が売れ始めたころなんて、アイドルごときが神聖なる日本武道館でライブをすることは夢のまた夢でした。それがいつの間にか、アイドルだろうがミュージシャンだろうが日本武道館公演を目指すのが当たり前になりました。

朝井リョウ『武道館』

「本当に日本武道館でライブをするのが、あなたの夢なの?」

そう聞かれて「はい!」と答えられる人がどれくらいいるでしょう?
「はい!」と答えた人、それは本心ですか?
実は、まわりの人がそう言っているからなんじゃないですか?

『アイドルは夢を与える職業』だと世間的に言われています。
でもその夢って、具体的にはどういうものなんですか?
ファンもプロデューサーも、そしてアイドル本人も、それについて自分のアタマで考えたことはあるんでしょうか?

「正しい選択」などない。ふり返ってみて「正しかった選択」があるだけだ。

この本では、アイドルにまつわる様々なルールやしがらみについて、著者・朝井リョウがバッサバッサと斬り捨てていきます。

恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業・・・現在の(一部は往年の)アイドルに始まるこれらの言葉たちは、大して歴史のない仕組みであるにも関わらず、さも当然かのように使われていますよね。

アイドルは恋愛をしてはいけない。それはファンに対する重大な裏切り行為になるからです。・・・でも、それって本当に大事なこと?

CDを何枚も買わせて1日だけオリコントップ10にランクインさせることが、本当に意味のあることなのでしょうか?

ファンと密接に関わることのできる握手会、グループを抜けることを卒業と呼ぶシステム・・・どれもこれも当たり前のように使われています。

アイドルは夢を与える職業。そして人を幸せにする職業。その幸せにする対象に、自分は入っていますか?

朝井リョウ『武道館』

朝井リョウはアイドルの背負う十字架を、容赦なく、文学として暴いていきます。そこに炎上のカタルシスはありません。

この本は、ひとりの、あるいは複数の少女たちが「今までそうだったから」というだけの土台の傾いだルールを崩し、「正しい選択」などという存在しないものにすがらず、ただ後になって自分が「あれは正しかった選択だった」と思える生き方を自分のアタマで考えて選ぶという、アイドルとしてではなく、人間としての生き方に言及する哲学的な小説なのです。

憧れの武道館、それは「誰の」憧れ?

あらすじ

【正しい選択】なんて、この世にない。

結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、
さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。
しかし、注目が集まるにしたがって、望まない種類の視線も彼女たちに向けられる。

「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」
「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」

朝井リョウ『武道館』

恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業……
発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取り巻く言葉たち。
それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは――。

「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編!

著者・朝井リョウ

「【アイドル】という職業が背負う十字架を、一度すべて言葉にしようと思いました。
すると、不思議と、今の時代そのものを書き表すような作品になりました」

つんく♂/音楽家、エンターテインメントプロデューサー

「アイドルって作るものでなく、楽しむものである方が良いに決まってる。
なのに、著者はこうやってアイドルを生み出す側にチャレンジした。
それも文学の世界で……。なんたる野望。なんたるマニアック。なんたる妄想力」

担当編集より

「アイドルという職業が背負う十字架について、考えて考えて、考え抜いて出た結論を書きました」というご本人の言葉通り、この作品は武道館を目指すアイドルグループの爽やかな青春小説には終わりません。特典商法、スルースキル、恋愛禁止など、アイドルを取り巻く言葉を突き詰めるうちに見えてくるのは、誰もが目をそらしてきた「アイドルを見つめる視線」の正体です。アイドルを見つめ続けてきた著者にしか書けなかった真実。アイドルファンの方にも、そうでない方にもぜひ読んでいただきたい傑作です。

厳しいルールに縛られたくて、人はアイドルを目指すわけじゃない

いつの頃からか、アイドルは自分がアイドルであることを公言して憚らなくなりました。自覚的にアイドルをやっていることは恥だとされていた時代から、小泉今日子の「なんてったってアイドル」を皮切りに、アイドルを自称することがステータスになる時代がやってきます。

そして現代は、女の子たちがどれだけ努力し、邁進し、精進し、華のアイドルになることにどれだけ一生懸命になっているかを表に出すことによって物語性を感じさせ、「アイドルなんて・・・」とそっぽ向いていた人たちを振り向かせるのがリアルとなる時代になってきています。

朝井リョウ『武道館』

ここまで仕組みが変わるのに、たった30年程しか経っていません。古の時代から続く伝統的なものであるならともかく、ここまで進化のスピードが早ければ、今後10年先には全く違った仕組みで成り立つアイドルが登場してもおかしくありません。

それなのに、恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業などのルールは守って当然かのように存在します。アイドルに憧れる少女たちは、こういったルールに縛られたいからアイドルになるわけではありません。

「私たちに、こうすべきだ、こうすべきだって言ってくる人の頭の中にばっかりいたら、ダメだよ」

物語の主人公・日高愛子は、小さな頃から歌って踊ることが好きだった。日本でトップのアイドルになることや、ドラマ・映画に引っ張りだこの女優になるのが夢ではなかったんですね。ただ自分の歌や踊りを見てくれる人が増え、楽しんでくれる人が増えればそれでよかった。

愛子が所属するアイドルグループ「NEXT YOU」は途中で脱退するメンバーがありながらも順調に成長を続け、デビューから3年で日本武道館公演を行なうことができるまでになります。見てくれる人が増えればそれだけアンチも湧いてくるし、ルールや縛りは日に日に厳しくなるもの。

成長していくにつれ愛子は、疑問を持ち始めます。アイドルに課せられているルールって、本当に大事なことなの?絶対に守らなきゃダメなことなの?それより大事なことがあるんじゃないの?

朝井リョウ『武道館』

愛子は純粋なアイドルではなかったのかもしれません。幼なじみの大地が大好きな気持ちは変わらず、恋愛禁止条例を守ってまでアイドルでいたいのか、わからなくなくなる・・・。

私の胸には、終盤で愛子がつぶやいた言葉がずっと刺さったままになっています。

「私たちに、こうすべきだ、こうすべきだって言ってくる人の頭の中にばっかりいたら、ダメだよ」
「正しい選択なんてないんだもん、どこにも」

この物語がハッピーエンドなのか、読む人によって見方は変わるでしょう。

愛子はアイドルとしては幸せになれなかったかもしれないけれど、自分が選択が『正しかった選択』となった結果、幸せになれたのだと私には読み取れました。

最後のシーン。

「幸せは、他人に決めてもらうものじゃない。自分で決めるものなんだ」と、愛子が華麗にステップを踏みながら私たちに語りかけてくるような気がしてきませんか?

もちろん、とびきりの笑顔で。

朝井リョウ『武道館』

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