降田天『女王はかえらない』 鮮やかに騙されるこの感覚、全てはプロットの匠による確信犯の所業

女王はかえらない

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人は無意識のバイアスから逃れられない

物語に入りこむとき、人は自然と自分の都合のいいように解釈し始めます。例えば、特に年齢を指定していないのに、話しぶりや仕草をみて、勝手に20代の若者が主人公なのだと思い込んだり、この人間はこういうキャラクターだから、きっとあいつに対して悪い感情を抱いていると信じこんだり、表面上は善人だが、そういう人間はきっと裏で悪いことをしていると疑いもしなかったり・・・。

そういった判断には、少なからず自分の生育環境が関わっています。といっても良し悪しの話をしたいわけではなく、誰にも影響されずに生きている人はいないのですから、例えば学生時代に酷いいじめを受けていたのであれば、どうしてもいじめ被害者の目線で物語を読んでしまうものでしょう。だからこそ、100%全ての人間に受け入れられる物語は存在しないのだと思います。

女王はかえらない

この小説を読む前に、実はいろいろと事前情報を得ていました。普段はあまりそういうことをしないで物語に望むんですが、今回はたまたま情報が入ってしまいまして・・・。なので、「後半に仕込まれたどんでん返しのつるべ打ちがすごい!」やら、「子どもの心理や浅はかな行動を描くのがうまい!」やら、「二弾仕立てのトリッキーなプロットに驚嘆するだろう」やら、過度な期待と煽りに辟易する気持ちがない混ぜになった状態で読み進めることになりました。

しかし!

またしても見事に騙されました。先日読んだ「イニシエーション・ラブ」よりもはるかにえげつない騙され方でしたね、これは。前述したバイアスが見事に感覚を狂わせ、後半は「そんなバカな!」を連呼するハメになりました。大体騙されたあとは妙なカタルシスに翻弄されるものですが、本作はズーンと沈んだまま起き上がれない程のブラックな塩梅です。覚悟して読んでください。

それでは、いつものようにまずあらすじを紹介し、物語のおもしろさを語っていきたいと思います。

あらすじ

2015年 第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作 選考委員も驚いた!

教室内で起きた激しい権力闘争は、やがて予想もできないラストへ!
二度読み必至!伏線の張りめぐらされた学園ミステリー。

片田舎の小学校に、東京から美しい転校生・エリカがやってきた。エリカは、クラスの“女王”として君臨していたマキの座を脅かすようになり、クラスメイトたちを巻き込んで、教室内で激しい権力闘争を引き起こす。スクール・カーストのパワーバランスは崩れ、物語は背筋も凍る、驚愕の展開に――。伏線が張りめぐらされた、少女たちの残酷で切ない学園ミステリー。

(宝島社公式HPより)

思い込みが物語を反転させる

物語は大きく3つに分かれています。それぞれの語り手は、

第一部:ぼく(あだ名はオッサン)
第二部:真琴
第三部:??(伏せておきます)

第一部である事件が起こり、二部以降でその後が語られるような流れですね。プロットの関係上、あまり情報を出してしまうと読む楽しみが減ってしまうため、ちょっとぼやかしながら書いていきます。

第一部 子どもたち

片田舎に立つ針山小学校の3年1組。
ここにはひとりの女王が君臨していた。

名前は「マキ」

彼女を頂点としたスクールカーストがクラスには存在し、マキの気分次第で自在に順位は入れ替わる。物語の語り手は、そんなスクールカーストのどこにも属さず、独立した存在として立ち振る舞う「ぼく=通称:オッサン」だ。

女王はかえらない

マキが決めたことは絶対で、彼女がカラスは白いと言えば実際にそうなってしまう。例えカースト2位に属していても安心はできない。事実、一番仲がいいとされていたミッキーは、マキの誕生日会にディズニーランドに行く予定があるから参加できないと言った瞬間に、最下層に叩き落とされることになったのだから。

ある日、クラスに転校生がやってくることになった。
彼女の名前は「エリカ」。都会からやってきたというエリカは、ファッションといい立ち振舞といい、洗練されていた。そして、マキと似た女王の風格を身に纏っていたのだ。

スクールカースト最下層にいたミッキーはあっという間にエリカの下僕となり、瞬く間にクラスは二分化する。旧来の女王・マキ派と、新女王・エリカ派だ。果たしてふたりの女王の闘いは、どちらの勝利で終わるのかーーー。

第二部 教師

教師として働く真琴は、担任を務めるクラスの女生徒・鈴木絵梨佳が行方不明になったことで悩んでいた。夫の雅史との関係は良好だったが、未だ子宝には恵まれていない。

女王はかえらない

生徒の親やマスコミ、警察との折衝に疲れながらも、日々の業務をこなしていく。鈴木絵梨佳が消えてから不安定なままのこのクラス。ようやく落ち着きを取り戻しつつあると思っていたところ、学級委員を務める森園真希に伴われた雪野めぐみより、鈴木絵梨佳がどこにいるのかを知っているとの告白を受ける。

警察に連絡し、真相解明を待つ真琴。やがて、この情報をもとに監禁されていた鈴木絵梨佳が救出される。もっと早くに言っていればと泣くめぐみと、それを必死に宥める真希を見て、真琴はある事件について思いを馳せるーーー。

第三部 真相

真琴は、自分がまだ幼かった頃に起きたある事件について考えていた。そう、自身が3年1組の生徒だった頃の話だ。何ということをしてしまったのだという、後悔の念は決して消えない。それはクラスの他の生徒も同じだろう。夫の雅史も似た思いを抱えているに違いない。

しかし、仕方なかったのだ。ああするより他に、何もできなかったのだから。あの頃の自分たちはあまりにも幼かったし、自分たちがしでかしたことの重さを、今ほどには理解していなかった。

何をしても、罪は消えない。それを確かめるため、今日、私はみんなを集めたのだーーー。

女王はかえらない

プロットの匠に唸る

著者の明確な意志の下、私たちは確信犯的に騙されることになります。全てが明かされる第三部を読んだ後、かならず最初から読み直すハメになるでしょう。最初に読んだときとは全く違った視点で物語を読むことになり、張られていた伏線がいかに綿密だったかがよくわかるはず。

これは批評で言われていることでもありますが、ミステリ好きな方や推理小説に詳しい方なら、仕掛けられたトリックを読み取ることができるかもしれません。実は仕込まれているのは、さほど特異なトリックというわけではないんですよね。とはいえ、ネタがわかったとしてもそれだけで全て解決するわけではありません。どんでん返しは必ず一度しかないわけでありませんから。

むしろ、この界隈ではありふれたそのトリックを使って、著者がどんな挑戦を挑もうとしているのかを楽しむのが、一番おもしろいんじゃないでしょうか。正直この展開には唸るしかありませんでした。見事という他ないですね。

女王は「かえらない」、ひらがなで表記されたタイトルの意味とは

さて、ここでタイトルについて触れておきましょう。

「女王はかえらない」

意味深なタイトルですが、「かえらない」がなぜ平仮名なのか気になりませんか?プロットにここまでこだわっている著者のこと、まさかタイトルに意味を持たせていないなんて考えられません。

実は、3つの意味が込められているんです。トリプルミーニングというやつですね。

ひとつ目は、女王は「帰らない」
ふたつ目は、女王は「返らない」
みっつ目は、女王は「孵らない」

読み終わってふとタイトルを読み返したとき、ゾワッときたのを覚えています。これまた見事なタイトルだと、著者の思惑に全て引っかかっている自分を恥じるのみです。

女王はかえらない

降田天 = 女性2人の作家ユニット

まずはこちらをご覧ください。↓

降田天の素顔

変わった名前の著者・降田天さんは、実は女性2人による作家ユニット。プロットを萩野瑛さんが、執筆を鮎川颯さんが担当されているそうです。マンガで原作担当と作画担当が分かれているのはよく見かけますが、作家でユニットを組んでいるというのはめずらしいですね。

この2人によって今後どんなミステリが生まれるのか。「女王がかえらない」を読む限り、期待するしかありません。唸るほどにおもしろかったこの本、騙されてみたい方はぜひ読んでみてください。

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