山田洋次『小さいおうち』 タキが犯した小さな罪は、きっと誰にも裁けない。

スポンサーリンク
スポンサードリンク

第38回日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞受賞

黒木華さんが映画『小さいおうち』で第38回日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞を受賞されました。おめでとうございます!それを記念して過去ブログに書いていた黒木華さんに関する記事と、映画『小さいおうち』のレビューをこのブログへ移しました。

この映画は紛れもない傑作ですので、これを期にぜひご覧になってみてくださいね。

※以下から過去記事転載文となります。↓

山田洋次監督最新作『小さいおうち』2014年1月25日ロードショー!
f:id:you-7188:20140310095741j:plain

主演の一人・黒木華(くろき・はる)さんが、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞となる“銀熊賞”を受賞されたことで話題になった、山田洋次監督の映画『小さいおうち』。当ブログでも受賞時に取り上げさせていただきました。↓

“黒木華(くろき・はる)” ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞をとった、黒木華の魅力とは? – ヘンテナブログ
f:id:you-7188:20140310101905j:plain

完璧な女中!

以前から注目していた黒木華さんの演技は如何程のものかとワクワクしながら観たのですが、あまりに素晴らしい演技力に完全に引き込まれ、途中何度も涙しました。

この映画での黒木華=タキちゃんに対する「この子、守ってあげなきゃ!」感は半端ないですよ。
純粋で忠実、よく気がつき、無駄な事はしない。
出しゃばらず、空気を適度に読む。
大声を立てず、ほどよく笑う(この笑顔がとてもかわいい)。
人前では極力涙は見せず、陰ながら嬉しさと悲しみの狭間で泣く(そしてこの顔がとても哀しい)。
これぞ、まさに完璧な女中。圧巻です。

黒木華さんとは何者??

黒木さんは舞台畑出身で、1990年生まれの若干23歳という若さでありながら、すでに数々の賞を受賞しています。↓

・第5回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞(『シャニダールの花』『舟を編む』『草原の椅子』)
・第26回日刊スポーツ映画大賞 新人賞(『舟を編む』『草原の椅子』ほか)
・第87回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞(『舟を編む』『シャニダールの花』『草原の椅子』『まほろ駅前番外地』『くじけないで』)
・第35回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞(『舟を編む』『シャニダールの花』『草原の椅子』『くじけないで』)
・第37回日本アカデミー賞 新人俳優賞(『舟を編む』『草原の椅子』)
・第56回ブルーリボン賞 新人賞(『草原の椅子』『舟を編む』『シャニダールの花』)
・第23回東京スポーツ映画大賞 新人賞(『舟を編む』『草原の椅子』)
・第64回ベルリン国際映画祭 最優秀女優賞(銀熊賞、『小さいおうち』)

この中でも、やはり先日受賞したばかりの『ベルリン国際映画祭 最優秀女優賞』が偉大ですね。なにせ、日本の女優としては左幸子・田中絹代・寺島しのぶに次ぐ、史上4人目の受賞者ですから。

赤い屋根の小さいおうちでおこった、ある恋愛事件の物語

まず、簡単にストーリーを紹介します。

シネマトゥデイより
ストーリー:健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵子)が残した大学ノート。

それは晩年の彼女がつづっていた自叙伝であった。昭和11年、田舎から出てきた若き日のタキ(黒木華)は、東京の外れに赤い三角屋根の小さくてモダンな屋敷を構える平井家のお手伝いさんとして働く。

そこには、主人である雅樹(片岡孝太郎)と美しい年下の妻・時子(松たか子)、二人の間に生まれた男の子が暮らしていた。

穏やかな彼らの生活を見つめていたタキだが、板倉(吉岡秀隆)という青年に時子の心が揺れていることに気付く。

ストーリーだけを追うと、「ある家庭で起こった小さな不倫騒動の物語」とシンプルに言い換えることができますが、その心の移り変わりや人間模様がとてもリアルに描かれており、一般的には称賛されるようなものではない不倫行為ではありますが、なぜそう想うに至ったかの流れに同意はできないまでも、共感はできるのではないでしょうか。

私たちは思い込みで過去を規定してしまう

舞台は昭和11年から始まります。同年2月には二・二六事件が起こり、政情が安定しているとは言い難い時代。現代から顧みるに、みな明るい面持ちで暮らしているとは思えない時代と解釈されていますね。

映画中で健史がタキの書いている自叙伝を読んで、あまりに幸せそうに赤い屋根の小さいおうちで働くタキの姿が描かれていることに違和感を感じ、戦争が起こるというのにこんなにのんびりしているはずがない、嫌なことを思い出したくないかもしれないが過去を美化しちゃいけないとタキに説教までしてしまうところが印象的でした。

私たちは自分の存在していない過去を語るとき、思い込みで判断してしまいがちです。

戦争の時代、そこに住まう誰も彼もが不幸で、世を儚み、恨み、地を這うようなジリ貧の生活を送っていたと勝手に想像し、勝手に同情し、勝手に憤る。

結局のところ、その時代にどんな思いで暮らしていたかなど、当時を生きた人以外にわかるはずもない。私たちにできるのは想像することだけ。一方的な思い込みで過去を規定してはいけない

健史が思い込みだけで語る姿を「バカだなぁ」と思いつつも、「でも自分だってそんなものか」と逆にたしなめられた気分になりました。たとえ戦時中でも、自分のいるところに直接的な被害がなければ案外穏やかに過ごせるものなのかもしれない。対岸の火事とはよく言ったもので、人間は所詮そんなものなのかもしれませんね。

表の恋模様と、裏の恋模様

この物語は、本当に狭い世界のお話しです。

戦争は確かに起こっているけれど、実際の戦闘風景は描かれない。一度だけ赤い屋根の小さなおうちが爆撃の被害に遭うシーンがあるが、そこに悲壮感はあまりない。

この映画で描かれているのは、小さな人間関係の模様だけなんです。それも、本当にささやかな恋模様。

もちろんひとつは、人妻である時子が主人の会社の部下・板倉にしてしまった道ならぬ恋。

ただ、もうひとつの表に出ない恋模様が終盤で浮き彫りになります。

時子のクラスメイト・睦子(中嶋朋子)にタキが心情を吐露するシーン。睦子はタキの話からコトの真相を察し、「好きになってはいけない人を好きになってしまったのね」とこぼす。これは当然時子に向けられたコトバではありますが、それと同時にタキにも向けられていたのではないでしょうか。

タキの平井家に対する献身ぶりは女中の鑑と呼べるほどのもの。しかし、特に時子に対しては献身を越えた、ある種の愛情のようにさえ感じるほどのレベルに達しています。睦子がタキに言った「時子は女学校時代から人気があってね、みんな時子が好きになってしまうの」というコトバ。これは丸々、タキや睦子にも当てはまるのかもしれません。結局みな、時子が好きでしょうがないんですね。

それゆえに、ネタバレになるのではっきりは述べられませんが、この物語の最大のキモである時子が板倉に宛てた手紙をタキがどうしたのかを知ると、とても胸がしめつけられるような気持になります。映画を観ていれば、正直タキが手紙をどうしたのか、結末を知る前に想像できてしまうでしょう。しかしわかっていても胸が苦しくなり、涙が溢れてきました。

選びうる2つの選択肢のどちらを選んでもタキは同じように苦しんだでしょう。タキの苦しみが、黒木さんの表情や仕草から伝わってくる。このパートは本当に名演だと思います。

タキが平井家で女中をしていた時間。それは、人生で一番幸せだった時間。

健史にタキが、ふと漏らしたコトバが胸に刺さります。

「私、長く生きすぎたの」


スポンサーリンク
スポンサードリンク
スポンサーリンク
スポンサードリンク