【書評】貫井徳郎『崩れる―結婚にまつわる八つの風景』 惨い結末は、むしろカタルシスを生む

崩れる

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これが幸せな結婚の結末なのか・・・

著者の貫井徳郎は長編のイメージがとても強い作家です。先日書評を書いた「乱反射」やミステリーの代表作「慟哭」は、他に比べようがないほどの傑作。ゆえにこの短篇集を読む前は戦々恐々でした。書き慣れない長さの小説を書いて自爆する作家もいますからね。

しかし本書のテーマは「結婚」。しかも各短編の主人公はほとんどが女性側です。ご存じの方もいるとは思いますが、貫井徳郎は男性でありながら、恐ろしいまでに女心を書ける作家として著名です。しかもその女心を書かせたら一級品の作家・桐野夏生が絶賛しているとなれば、これは読まざるをえません。

いざ読み終わってみると・・・もう、絶対に結婚なんてしたくないなと思わされましたよ。残酷すぎる結末を迎える物語が多く、未婚の自分がなぜか誇らしくなってきました。

この本はぜひ、「結婚している女性」に読んでもらいたいですね(ニヤリ)。

傑作すぎる表題作の「崩れる」

崩れる

まともに働かない「カス」同然の夫と、突然銀行を辞めてアニメーターになると言い出した息子にストレスを感じている妻の芳恵。主婦として働きながらも、結局はメインの稼ぎ手としてパートに出る。化粧品を箱に詰めるだけの単調な仕事だ。いくら夫がカスだとはいえ、自分が働かなければ家計が火の車となる以上、仕方なく働いているのだ。

残業を頼まれればイヤとは言えず、くたくたになって家に帰れば夕食の準備を求められる。片付けて、風呂に入って寝て起きたらまた朝ごはんをつくってまたパート・・・詳細に描かれるその鬱屈とした日々に、読者は心が蝕まれていく。その先に待つ惨い結末を、少し楽しみにしながら・・・。

手遅れ

表題作であり、間違いなく本書で一番の傑作。

妻の芳恵が徐々に心を病んでいく様があまりにリアルで、もうこれは最悪の結末を迎えるしかないだろうなと思っていたら、それをさらに超える最悪の結末で心底震えましたね。正直、こんな程度の事件はよくニュースで見かけるので驚くほどのことではないのかもしれません。

しかし、その結末を迎えるまでに「これはもうしょうがないよ・・・」と庇いたくなるような心境にさせられるのです。もちろん犯罪だしダメなことだとはわかっていても、やっぱり死んだほうがいい人間はいるんじゃないかって、ドス黒い感情が自分の中に生まれてくるのがわかるんですよね。ああ怖い。

とりあえず、こんなのが結婚の結末なら、絶対にしたくないなと心から思いました。

時代を先取りしすぎた短編たち

「崩れる」の他に収められているのは、以下の7作。
「怯える」「憑かれる」「追われる」「壊れる」「誘われる」「腐れる」「見られる」・・・どれも不穏な匂いがします。

実はこの本、刊行されたのは2000年のこと。まだ当時使われていなかった言葉を、先にこの短編たちに取り入れていたことが話題になりました。

例えば、
「ストーカー」
「公園デビュー」
「DV」

などがそうです。

まだ当時は言語化されていなかった社会問題なんですよね。優れた作家は時代を先取ってしまうといいますが、貫井徳郎はまさにその代表的な作家と言えるでしょう。

DV

短編にこそ、作家の力量が現れる

これもよく言われることですが、作家の力量を測るなら代表的な短篇集を読むのがベストですね。キャッチコピーなんかでもそうではないですか。いかに短い文章で、そのリアリティや感情を表現できるかが問われるわけですから。

先に述べたとおり、貫井徳郎は長編のイメージが非常に強かった。それだけに、短編でも本書のような傑作を残せることがわかり、やはりこの作家は稀代の人間なんだと確信するに至りました。

読者の皆さんも、好きな作家がいたらぜひ短篇集を読んでみてくださいね。

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