映画『THE WAVE(ウェイヴ)』 全体主義傾倒へのマインドコントロールは5日でできる。

ファシズムとマインドコントロールを実践する授業を行なった、あるアメリカの高校。その実話を元につくられたドイツ映画『THE WAVE ウェイブ』を観ました。

THE WAVE

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元になった実話とは

まずは原作となった実話について軽く説明しましょう。

1969年、アメリカ・カリフォルニア州のカバリー高校である歴史教師が、授業でナチス政権下のドイツが行なっていた全体主義を教えるためにある映画を見せながら講義したそうですが、授業を受けていた生徒達は洗脳された理由が全く理解することができなかった。ヒトラーの言葉に従ってしまう意味がわからず、なぜ批判できなかったのかも分からなかった。その歴史教師は生徒たちがこの恐ろしさを理解していないことを見るにつけ、ある試みを行ないました。

まず教師は、姿勢や先生の呼び方、質問の仕方や答え方などに細かい規則をつくり、ある種のゲーム感覚でこの規則を守るように指導しました。生徒たちは基本的にルールで縛られることや命令されることを本質的に嫌うもの。教師も反発を食らうことは懸念していたようですが、むしろ普段自由を満喫していた生徒達は面白がって規則を守り出した。それこそゲーム感覚で、どちらがちゃんと守れるか競争するかのように。

THE WAVE

不思議なことに本来ルールで縛られることは嫌がるはずなのに、その規則を全員が守れるようになるとさらに新しい規則をつくり出して自分たちを縛りはじめます。しかも、この規則を守るのは授業中だけでよかったのに、次第に授業終了後もその規則を遵守するようになっていきます。あくまで「ゲーム感覚」で。

そこで教師はやめようとせず、むしろこの規則を守るチームに『ウェイヴ』と名前をつけ、「この運動にしたがって行動することが、力を得ることになる」と宣言したところ、生徒達は旗を掲げたりシンボルマークまでつくりはじめました。事態はその教室だけで治まらず、他のクラスにも広がり、最終的には全校生徒にまで広がりました。

『ウェイヴ』に入らない人たちは危害を加えられ、脱退しようとするものには制裁されるため誰もやめようとは言い出さなくなった。おそろしいことに、この広がり方はまさにナチスを彷彿とさせるものだったといいます。

さすがに危険と判断したのか。その教師は『ウェイヴ』の皆にもう1度ヒトラーの映画を観せて「これがナチスのやりかたである」ことを示したところ、生徒達は我に返ったそうです。

マインドコントロールは5日でできる

THE WAVE
映画はこの実話をもとに、ほぼ忠実に構成されています。いや、むしろ結末は実話よりも遥かに最悪な終わり方でした。詳しくはネタバレになるので申しませんが、こうなってしまっても仕方がないなと思わせる悲劇的な最後です。

生徒達は、誰もが自分が全体主義に染まっていくとは思っていませんでした。当初は単なるゲーム感覚。どちらがより規則を忠実に守れるかを測るゲームだったんですね。この感覚は、ファミコンと同時に生まれた私にとってはとても自然な感覚です。ある特定の規則下でどれだけ成果を出せるか。それで評価が決まるとなれば、人はそれに向けて走り出すでしょう。少なくとも私はそこに違和感を感じませんでした。

面白いことに「組織内の支配・従属関係」におけるマインドコントロールは、支配側にも起こりえるんです。つまり教師にも影響があるんですね。映画中、この教師(ベンガーという名前)は次第にリーダーとして崇拝されることに恍惚となっていき、妻にそれを窘められるシーンがあります。教師は戸惑いますが、その魅力に抗えないのか 『ウェイヴ』を解散させることを遅らせてしまい、結果がエンディングの悲劇となってしまいます。

THE WAVE

映画では、このマインドコントロールが始まり、悲劇的な結末を迎えるまでたったの5日しか経っていない。それが何より恐ろしいことです。

日本の学校教育って、案外これに近いんじゃないか?

THE WAVE

映画を観終わって、自分が容易にマインドコントロールされるような人間じゃないという考え方は吹っ飛びました。むしろゲームという枠の中で、規則に従ってミッションを成し遂げることに違和感なく育ってきたことから、どちらかというと全体主義に染まりやすい人間なのかもしれないと感じています。

その精神を育んできたもの、それは案外「学校教育」なのかもしれません。
「◯◯先生と呼べ」
「発言は起立してから、勝手にしゃべるな」
「チームは団結が必要だ、同じ服装をしようか」
「チームを表すシンボルマークをつくろう」

ニュアンスは違えど、それこそ小学校教育から似たようなことは違和感なく指導されてきているでしょう。私が映画を観ていて違和感をあまり感じなかったのは、指導という名の命令に従うことが半ば当たり前のように思っていたからかもしれません。

だからといって日本人全員があっさり全体主義に染まってしまうかと問われると一概にはそうとは言えませんが、もしこの映画の最後があんな結末ではなく、何のトラブルもないままだったとしたら。案外素晴らしい教育方法だと絶賛されてしまうんじゃないでしょうか。

THE WAVE

人間は本来「支配されたい」という欲求を持っています。逆に「支配したい」という欲求も持っており、それらは表裏一体です。人を支配するには、短期的にも長期的にも改善の見込みがないような、閉塞感が蔓延するような状況に徐々に追い込んでいけばいい。そうすれば人は救世主を求めるがごとく、支配されたいと思うようになる。

少数が排除されていく社会は全体主義に染まる可能性を多分に持っている。多様性を受け入れることができるか、それ如何で社会集団の健全さが測れようというもの。今の日本はどうでしょうか。健全と呼べるでしょうか。私を含めて社会は、日本は、世界は、案外簡単に全体主義に染まってしまえる。

「全体主義なんかに染まるはずがない!」と強がるのではなく、「状況によって、俺は簡単に全体主義に染まってしまうんだ!」と頭の片隅にでも置いておく方が、よっぽど健全な心を持てる。そう気付かせてくれる、素晴らしい映画でした。独裁や全体主義に興味のある方はもちろん、『教育』に携わっている方にぜひ観ていただきたい傑作です!

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