【書評】西澤保彦『彼女はもういない』 共感も感情移入も不要。ただ、その絶望を少しだけ理解できれば

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きっかけはビブリオバトル

タイトルを聞いただけだとありふれた失恋物語を想像してしまいそうなこの本。そもそも知るきっかけとなったのは知的書評合戦ビブリオバトルでした。

なんだそれ?という方もいると思うので簡単に説明しておくと、

知的書評合戦ビブリオバトル 公式ウェブサイトより
1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2.順番に一人5分間で本を紹介する。
3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
4.全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

というルールで行なわれる本のプレゼン大会です。

詳しくは公式ページに譲りますが、私も一度参戦したことがあります。結果は散々なものでしたが、自分の好きな本について語るのは本当に楽しかった。また参加したいなと思っています(ちなみにその時のレジュメは過去ブログにあります)。

ビブリオバトルは小さいもので内輪から、大きなものは全国大会まで存在しています。東京都が後援する全国大会では毎年レベルの高いプレゼンが繰り広げられており、その様子の多くはYouTube等にアップされており今でも過去の分を閲覧することができるんです。その中で私がもっとも読みたくなった本が、この「彼女はもういない」でした。

この本を提示した2011年度チャンプ・杉目美奈子さんによるプレゼンは今でも動画で観ることができるので、興味をもった方はぜひご覧になってみてください。拙い喋りながらもその想いは熱く、この本にどれだけ影響を受けたかが伝わってくるかと思います。

本のあらすじ

Amazon BOOKデータベースより
母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。

資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。

誘拐、拉致、凌辱ビデオの撮影そして殺害。冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか―。青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ。

共感も感情移入も不要、いやできない

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杉目さんのプレゼンで語られるとおり、「彼女はもういない」は儚い失恋の物語なんかではなく、凄惨な連続強姦殺人事件を犯人側と警察側から交互に描いたミステリー推理小説。その犯罪描写もかなりえげつなく、こういった小説に慣れていない人はご飯が食べられなくなるくらいです。

上述のあらすじを読んで、主人公の鳴沢がなぜ連続殺人鬼に変貌したのかを理解できる人はいないと思います。同窓会名簿から、少なからず想いを寄せていた比奈岡奏絵の連絡先が空欄になっていたので殺人鬼に変貌したってどういうこと?そう思うのは当たり前ですよね。

物語の終盤に差しかかる頃にようやくその理由がわかりますが、微塵も納得のいかない理不尽すぎる想いと悪行に憤りを覚えること然り。一片の慈悲すら鳴沢には必要ないとすら思うはず。なかなか真実に辿りつけない警察のやりとりにもヤキモキさせられます。

そして結末。一応伏線は張ってありましたが、この展開を予想できた読者はどれくらいいるのでしょう?正直私は想像もしていませんでした。結局、この物語で救われた人はひとりもいません。絶望の境地とはこのことか。

共感や感情移入なんてできないし、したくもない。それくらい不快な狂気に満ちています。

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…でも、少しだけ「理解」はできる

これだけ凄惨な物語なのに、プロットの妙と凄まじい筆力によって引きこまれていく自分を強く感じました。絶対に鳴沢と分かりあえる日はこない、それだけははっきりしているのに、どこか彼を理解しようとしている自分がいる。そのために読み進めていたような気がします。

鳴沢の狂気は絶対に許されるものではない、それは読者の共通認識でしょう。ただ、鳴沢が抱える遺恨の根の部分には、ほんの少しだけ理解を示せるかもしれません。おそらくこの部分に理解の可能性を感じるかどうかで、作品の評価が変わるのではないでしょうか。

ビブリオバトルでプレゼンした杉目さんは、この本のことは一生忘れることはできないと仰っていました。言いにくそうに、鳴沢とどこか通じる何かがある、常にこの男のことが気にかかっていると述べていたことも印象的です。

ひょっとすると杉目さんは、その根の部分に理解の可能性を感じたのでしょうか。鳴沢は感情移入もできず共感もしたくないような人間ですが、どうにかして理解したい、そう思えた人だけがこの物語に吸い込まれていくのかもしれません。吸い込まれることが良かったのかどうかはわかりませんが。

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鳴沢が抱える遺恨の根。私はそれが「金」「女」であると考えています。もっと言うなら、あまり使いたくない言葉ですが「女の肉体の換金性」ではないかと。これ以上はネタバレになるので言えませんが、この辺りに何かしらの理解を示せるのであれば、この本を読む価値はあります。

オススメは決してしません、読むなら覚悟してどうぞ。

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