【書評】三崎亜記『廃墟建築士』 新築の廃墟はいかが?現実にひと振りのスパイスを。

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ありえないことなど、ありえない

作家・三崎亜記の描く世界では、ありえないことなど、ありえない。
不思議は不思議としてではなく、当たり前のように描かれる。

デビュー作「となり町戦争」で、すでにその真価は発揮されていました。
広報で突然知らされた「となり町との戦争のお知らせ」。何事かと驚いたが町はいつもどおりの様子で、特に戦争による影響は見られない。戦争が始まっているんだと意識したのは、その広報誌に掲載されていた戦死者の数。戦争は公共の事業として役所が管理している世界で、あながちこうなり兼ねないよなと感じさせる、絶妙なリアルさが三崎作品の特徴なんですね。

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「廃墟建築士」もそういったリアルさが内包された作品。4つの不思議な中編小説がパッケージされています。ひとつずつ紹介していきましょう。

七階闘争

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あらすじ

ある街で立て続けに不穏な事件が起こった。殺人事件や自殺、放火に孤独死。それぞれの事件に関連はなかったが、あるひとつの共通点があった。事件はすべて建物の七階で起こっている。ただの偶然に過ぎないはずの事件は異様な展開を迎える。市議会での決定により犯罪率を上昇させている七階を撤去することが決まったのだ。嫌な予感がした。なぜなら私が住んでいるのは七階だったから…。

七階に住んでいる人はご注意を

たまたま建物の七階で起こる物騒な事件が続いたからって、七階を撤去するってどういうこと!?なんて思っている内は三崎作品を理解できません。「お、今回はこう来たか」くらいに思っていたほうが、するりと物語に入り込めます。

七階を追い出されても同じマンションの十階に無償で転居できるからと楽観的に考えていた主人公は、職場で気になっている女性(別のマンションの七階に住んでいる)が七階撤去反対運動に積極的に関わっていたことから、ずるずると巻き込まれていきます。

ここで七階愛のうんちくが語られるんですが、これがまた面白い。七階という階が世界に誕生して千年経っていたり、五階や八階に遅れること二百年後に七階は誕生していたり、世界最初の七階は地面の上に直接造られていたり。何度も言いますがこういう世界なんです。ツッコミは野暮ってもんです。

七階の存在が犯罪を助長していると世間は騒ぎ、反対運動派は縮小に追いやられていきます。あくまで七階に忠誠を誓う彼女が、最後に取った崇高な意思の元での行動には心が揺さぶられました。個人的にはこの話が一番おもしろかったですね。

廃墟建築士

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あらすじ

表題作。いつか崩れて自然へと回帰していく姿に魅せられ、「私」は廃墟を造り続けてきた。時の経過によって醸成される廃墟こそが、その国の文化的成熟度を表すのだ。だがある時、「偽装廃墟」が問題となり…

廃墟を新築すること

もうタイトルがすでにおもしろい。廃墟を新築するという発想が素晴らしい。

長い目で見れば建物はいずれ廃墟になる。そう考えれば廃墟を新築するという考え方もできるかもしれない。誰が何のために使うのか、用途もわからないし必要があるとも思えないような建物、道路なんかが予算や税金のせいでいくつも建てられている日本を見ていると、迂遠ではありますがあらゆる建築士は廃墟建築士なのかもしれません。

ファンタジーでありながら、どこか真実味を帯びた設定なのが光ります。間違いなく傑作でしょう。

図書館

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あらすじ

とある田舎の図書館を「夜の図書館」として公開するために、専門の会社から本の調教師が派遣された。図書館には野性がある。遠い昔、図書館は「本を統べる者」と呼ばれていた。本には野性があり、自由に空を飛び回っていたのだ。図書館という檻に閉じ込められた本たちは野性を失ったかのように見えたが、閉館後、夜の図書館では…

図書館には野性がある

これは本好きにはたまらない設定。我々が見ていないところで、本は意思を持ち自由に飛び回っているというのだから。しかも動物と同じように本は皆一葉というわけではありません。活発な本もいれば冷静な本もいる。おそるおそる羽ばたく本もいれば滑空するように飛ぶ本もいる。

これはワクワクしますね。さらにその本や、親である図書館を調教する仕事があるんです。懐いた本が肩に乗ってくるなんて、想像するだけで楽しい。物語はわりとシリアスな展開を迎えますが、これはぜひ映像化してほしいなと思える良いストーリーですよ。

蔵守

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あらすじ

蔵守人と蔵は、中にある何かを守り続けること事態に存在意義を見出している。蔵守人と蔵そのものの心象風景が交互に語られ、略奪者からその何かを守り続ける。やがて物語は「終わり」を迎えるが、蔵守人と蔵の意思を受け継ぐものにより、新たな蔵守人と蔵の物語は紡がれる。

何を守るかではなく、守ること自体に意義がある

これはあらすじを説明するのが難しい、四つのなかで最も抽象度の高い物語。「廃墟建築士」は建物を軸とした中編集ですが、唯一この物語だけは建物である蔵に明確な意思が備わっています(図書館にも意思はあったようですが、彼は語りません)。というか主人公が蔵という物語って他に存在するのでしょうか。斬新すぎます。

抽象度が高すぎて理解が難しいのですが、「守る」こと、そして「継ぐ」ことの崇高さに胸が熱くなる物語です。略奪者とはいったい何なのか、なぜ蔵を守る必要があるのか。いろんな解釈ができますが、理由は解らずとも守ること守り続けることそのことにこそ意味がある行為も存在するんだという、強いメッセージを感じました。

読後感

全体を通して感じたのは「守る」ことの意味。
作品としては間違いなく「攻め」の方向なのですが、今まで先人が築き上げてきたものを、場合によっては命を賭してまで守ろうとすることの大事さ・崇高さのようなものを感じさせます。

ファンタジックな様相を呈していますが、物語は全体を通してシリアスですし、結構重い。気軽に読める本ではないですが、この本が三崎亜記の最高傑作であることは疑いようがありません。マジック・リアリズムが好きな方ならすんなり読めるんじゃないでしょうか。そんな人にオススメします。

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※文庫版も発売されていますが、単行本の装丁が凝っていて素晴らしい出来なので、単行本を強くオススメします。↓


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