【書評】仁藤夢乃『女子高生の裏社会』 〜私たちの知らない「関係性の貧困」に苦しむ少女たち〜

IMG_7541

スポンサーリンク
スポンサードリンク

関係性の貧困に陥る女子高生

最近読んだ中でも、飛び抜けて衝撃を受けたルポルタージュ「女子高生の裏社会」。この本で初めて”関係性の貧困”という言葉を知った。

「JKリフレ」「JKお散歩」という言葉が、一時期ニュースでひっきりなしに報道されたのは2年ほど前の話。ここ数年で一気に活性化し、そして一気に摘発が進んだことでニュースの一面には出てこなくなった。だからといってこうした「JK産業」が消滅したわけではない。

彼女たちを操る人間が、あからさまに見えるかたちで商売をやらなくなっただけだ。今でも秋葉原を歩いていると、女子高生姿の女の子たちがチラシを配っているのをよく見かける。前を通ってもチラシを渡そうとはせず、ただこっちを見ている。声をかけてくれるのを待っているんじゃないかと思う。詳しくはよく知らないが、条例や店舗のルールで声をかけるのは規制されているんだろうか。

本当に女子高生なのかは定かではない。知りようもない。だがこういった光景を未だに見かけるということは、この産業が消滅していないことを物語っている。摘発を恐れて一時的に姿をくらましたとしても、ほとぼりが覚めたころに少しずつ仕事を再開し、いつの間にか摘発前のように戻るなんていうのはよくあることだ。

「JKお散歩」で働く女子高生はバカな不良少女なのか

私たちは道行く中でチラシを配る女子高生を見かけたときに、「あの年で性を武器に商売するなんて、親はどういう教育をしているんだ!?」とか「どうせ何も考えていないバカな不良少女なんだろう」なんて判断していないだろうか。私も時折、そう思うときがある。

実際に街角に立って「リフレ」や「お散歩」の客引きをしているような女子高生たちと直接話をして、実態を明らかにしたのがこの本の著者・仁藤夢乃さんだ。彼女は女子高生サポートセンターColaboの代表理事を務めている。彼女自身、中学生の頃からギャルとして過ごし高校も2年で中退している。当時から街を歩いているだけで、男性から性目的で声をかけられることはしょっちゅうだったという。そんな彼女が今は、関係性の貧困に苦しむ女子高生たちを救う側に立っている。

「JKお散歩」や「JKリフレ」で働く女子高生たち対してだけでなく、いわゆる性風俗の仕事に従事する人に対する我々の勝手なイメージは、「貧困層に属しており、日々の生活に困窮している人たち」というものではないか。本書には、JK産業で働く少女は次の3つの階層のいずれかに分けられるとしている。

(1)貧困層:貧困状態にあり、生活が困窮している層。

(2)不安定層:経済的困窮家庭の子ではないが、家庭や学校での関係性や健康・精神状態に不安や特別な事情を抱えている層。

(3)生活安定層:経済的にも家庭や学校における関係性的にも困窮しておらず、その他特別な事情も抱えていない層。

貧困層に属している子どもが性風俗の現場に取り込まれやすいのは理解がしやすい。不安定層は振り子のように日常と非日常を行き来しているイメージを持てるだろう。しかし、生活安定層に属する子どもが性風俗の仕事をするイメージは、きっと湧かない。

「観光案内業」でカモフラージュされるJKお散歩

a1130_000550
しかし、JK産業の現場にはこうした生活安定層に属する女子高生が存在する。そこで働く理由はひとつではないが、例えば田舎ではアルバイトするところもないし、あっても時給が安いしシフトも不自由で効率が悪い。「JKお散歩」を性風俗としてでなく、観光案内業として理解する彼女たちは、好きな時間に好きなだけ働け、頑張り次第で入ってくるお金はどんどん増えるこの仕事に魅力を感じるのは無理もない。

あからさまに性風俗を謳っていれば、疑うことを知らない彼女たちもさすがに働こうとはしないだろう。募集要項には当たり障りないきれいな言葉が並んでいる。しかも職種は「観光案内業」だ。あまりその土地に詳しくないお客さんと一緒に街を歩いて案内し、一緒にお茶したりご飯を食べたりするだけという、性のにおいがしないカンタンな仕事のように見える。

もちろんそれなりの大人なら、そんな都合のいい仕事があるなんて信じていないし、カンタンに儲かる仕事には確実に何か裏があることも知っている。耳障りの良い言葉に騙されない程度の、人を疑う能力も持ち合わせているだろう。

親や教師以外の大人と関わることのない子どもたち

では、提示された条件をすべて信じてしまうような子どもはバカなのだろうか。私はそうではないと思う。

子どもが普段の生活で、自分の親や教師以外の大人と関わりを持つことはほとんどない。しかもお隣同士の付き合いすらままならない現代では、その傾向に拍車がかかっている。さらに世間的にも「知らない人と話しちゃダメ!」なのが当たり前になり、近所の人が登校中の小学生に挨拶をしただけで、不審者に声をかけられる事案として警察管内に周知される時代なのだから、ますます大人と子どもの距離は離れていく。

大人や世間を判断する基準が家庭や学校にしかない子どもに、「JK産業」の何たるかを知る機会がどこにあるんだろうか。もちろんテレビではさかんにこのビジネスの闇を紹介はしていたし、親が敏感であれば子どもに注意をうながすこともあるだろう。

しかし親との関係性が悪い不安定層は、その危険性を学ぶチャンスが少ない。生活安定層にいたっては自分事と捉える機会がないのではないか。与えられた情報から自分なりに判断して、その甘美なフレーズを疑うことなく受け入れてしまう従順で純朴な子どもほど、表面上はきれいな観光業であるという安心感で問題意識を持つこともなく、危険な道に足を踏み入れていくのかもしれない。

頑張れば頑張った分だけ成果の出る立派な仕事

本を読んで驚いたのは、JK産業で働く女子高生たちは、自分のやっていることを「立派な仕事」だと認識し、故に責任感を持ち、人を信じることをやめない真面目さを備えている子ばかりだったことだ。正直、会社員でもここまで自分のやっていることに誇りを持っている人はいなんじゃないかというくらい、仕事に打ち込んでいる子もいる。

これは店長やオーナーの教育も影響している。

「観光業は立派な仕事なのだから、例え女子高生でも仕事をする限りは責任を持ってお客さんをもてなさなければならない。そうして喜んでくれたお客さんは、いろんなオプションをつけてくれる。頑張ればすぐに結果が返ってくる。どうだ、素晴らしい仕事だろう?だからみんな誇りを持って働いてくれ。」

そんな風に教育を受けた純朴な少女たちは、実際に頑張りが成果となって返ってくることに満足し、この優しげな大人たちを信用してしまう。誇りを持つべき仕事かはわからないが、仕事に対する考え方はそれほど間違っているとは思えない。だから尚更カンタンに信じてしまうのかもしれない。

自己肯定感のなさが、泥沼化に拍車をかける

a1130_000549
さらに驚くのは、効率よくお金を稼ぐのが目的である子が多いにも関わらず、たくさんお金を取るのはなんだか悪い気がすると思っている子が多いことだ。こういった仕事をしていないとしても、実際に社会に出てお金を稼いだことのない子どもに、大人レベルの金銭感覚を求めるのは難しい。だから自分の相場がわからない。

人身売買に相場がある事自体問題だとは思うが、自分の価値がわからない女子高生たちは、性行為の代金として7,000円を提示することもあるそうだ。それも理由としては「1万円って言ったら断られるかもしれない。」なんてものだから、更に衝撃だ。別にもっとお金が取れるなどと言いたいわけではない。問題なのは、自己肯定感が全く感じられないことだ。

すべての女子高生がそうというわけではないが、JK産業に足を踏み入れてしまい抜け出せなくなる子は、自己肯定感がないように見える。だから例えお金で買われることであっても、誰かに必要とされていること自体が嬉しいと感じてしまうのではないか。安く自分を売ることになっても、相手から拒否され続けるのはつらいからそこで手を打とうとしてしまう。

金、家だけでは人は生きていけない。必要なのは「関係性」だ

生きていくには住む場所がいる。食っていくためには金がいる。じゃあその次は?

彼女たちに必要なのは、「適切な関係性の人間」だ。大人だったら誰でもいいわけじゃない。親なら安心なわけでもない。最悪の場合、親から引き離さなければならないこともある。頭ごなしに叱りつける思考停止した人間ではなく、きちんと自分の方を向いてくれる人との関係性が必要だ

話を聞いてあげただけで親切にしてくれたと、すぐに相手を信用してしまうような従僕な子どもたちがいる(もちろんそうでない聡い子もいる)。相手の下心を読む力をまだ養えず、大人社会のような人間関係の駆け引きを知らない子どもには、向きあってくれる人間が必要だ。

責任や誇りを持って一生懸命働く彼女たちを説得できますか?

働くことに絶望している大人たちの姿を、子どもたちはちゃんと見ている。そんな大人たちに比べて、責任や誇りを持って頑張って働く彼女たちを責める権利があるのだろうか。

働いても働いても給料は上がらず、体も心も擦り切れるような仕事をするよりも、頑張りが成果となってすぐに反映される「お散歩」の方がまだマシなんじゃないか、むしろ素晴らしい仕事なんじゃないかと考える彼女たちを説得できるだろうか。私には法律や規範を持ち出す以外で説得できる気がしない。

私たちは、彼女たちにとって「いい関係性の大人」になれるだろうか。


スポンサーリンク
スポンサードリンク
スポンサーリンク
スポンサードリンク