映画『そこのみにて光り輝く』 一瞬だけでもいい。自分が光り輝ける場所があるのなら、それだけで。

綾野剛×池脇千鶴×菅田将暉が共演する、悲しくも美しい映画『そこのみにて光り輝く』を観てきましたので、さっそくレビューをアップします。先に言っておくと、私が今までに観た日本映画の中でも5本の指に入る傑作でした。ちなみに不動の1位は、本作と同じく池脇千鶴が主演をつとめる『ジョゼと虎と魚たち』です。

映画『そこのみにて光輝く』公式サイト

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女優池脇千鶴は日本の宝 by 山田孝之

カメレオン役者として有名な山田孝之がこの映画を絶賛するコメントを出しているのですが、その中で主演女優・池脇千鶴に対してこう言っています。

女優池脇千鶴は日本の宝だね! 

いやもう完全にアグリーです。池脇千鶴が出演している作品はほとんど観ていますが、ハズレはひとつもないと言っていい。特に前述した『ジョゼと虎と魚たち』は稀代の名作でしょう。

ちなみに、同じく主演を張った綾野剛からもこのように評されています。↓

綾野剛、共演した池脇千鶴に安心感「重鎮のオーラ」とベタ褒め? | シネマカフェ cinemacafe.net

「どんな芝居も受け入れてくれる安心感」

「重鎮のオーラ」

「同い年ですが僕は孫みたいなもの」

こちらも絶賛ですね。観る側からしても、池脇千鶴が出ていると安心してしまいます。「期待以下の演技は絶対にしない」と安心できるのは、池脇千鶴と山崎努くらいのものです、私にとって。そんな『そこのみにて光り輝く』ですが、前述の通り傑作でした。一分の隙もない、完璧な映画と言っていいかもしれません。

本作でメインとなる3人の登場人物は以下のとおり。

  • 達夫・・・綾野剛
  • 千夏・・・池脇千鶴
  • 拓児・・・菅田将暉

言うまでもなく実力派の3人。もちろん前述の池脇千鶴は完璧なまでの役者魂を見せつけてくれますし、綾野剛の絶望したような目つきは恐ろしくなる程に「死」の臭いを感じさせます。しかし、実はこの映画でもっとも印象を残すのは菅田将暉なのかもしれません。

菅田将暉(すだ・まさき)という名前を、まだ知らない方は多いかと思います。2008年に第21回ジュノンスーパーボーイコンテストでファイナリスト12人に選出されたことがきっかけで芸能界にデビューし、仮面ライダーWで初主演を務めたことから名が売れ出したのですが、やはり彼が演技力の真髄を見せつけたのは映画『共喰い』でしょう。ちなみにこの作品で、彼は第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しました。この映画での菅田さんがどれほど素晴らしい演技を見せたかは、当ブログで以前に記事を書いていますので、ぜひご覧になってください。↓

映画『共喰い』 閉じられた共同体からの解放は、血の呪いを断ち切れるか – ヘンテナブログ

池脇千鶴演じる千夏の弟・拓児を演じた菅田将暉。拓児の野性味溢れる言動は、この閉塞した舞台の中でひときわ明るく輝く。拓児自体も決して自分の境遇を望ましいと思っているわけではないことは、作品中で何度も描かれている。くだらない仕事に辟易し、くだらない家庭に嫌気がさし、くだらない生活につばを吐く。しかしくだらないと言った矢先に向かうのはパチンコ屋。そこで達夫と出会うわけだが、文句を言いながらも楽しそうに生きている拓児の明るさに救われた達夫は、しばしば拓児とつるむようになる。

拓児が持つ魅力は、非常に危うい。少しでも明るさが過剰になればただのウザい奴い変貌してしまう。菅田将暉の演技は、その塩梅が実に見事でした。この映画を観た人は、きっと拓児のとった行動に泣いてしまうはず。倫理的に共感してはいけないかもしれませんが、初めて拓児が見せた感情の爆発に共感せざるを得なくなる。菅田将暉が今後の日本映画を担うとんでもない役者になることを約束する、素晴らしい作品だと思いました。

※テアトル新宿で観てきました。下の写真は、映画館入り口前に掲示されていた切り抜き記事と、階段沿いに掲示してあった公開記念写真展です。

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閉塞感漂う函館の片田舎で、舞台の幕は上がる

達夫(綾野剛)は砕石会社で働いていた。山をダイナマイトで爆破し切り開く仕事だ。しかしある日事故が起こる。達夫はそれをきっかけに仕事を辞め、人生に絶望したかのように生きていた。日がな一日タバコを吸いながらパチンコへ行く。そのままブラブラ歩き回り、家に帰れば酒浸り、起きたらまたパチンコへ…。

そんな生活を続けていたある日、パチンコ屋である青年にライターを貸してくれとせがまれた。名前は拓児(菅田将暉)。長い間染めずにいたためまだらになった金髪を後頭部で縛り、不摂生とタバコのヤニのせいか汚く染まった歯でよく笑う、妙に人懐っこい若い男。ライターを貸してもらったお礼に飯をおごるという拓児。関わるのを面倒くさがる達夫は何度も追い払おうとするが、根負けして拓児の家まで行くことになった。

家は一見「小屋」とでも形容したくなるボロ屋で、達夫はいぶかしげな顔をしながらも拓児について家に入る。寝たきりになった父親のうめき声を聞きながら、拓児は飯をつくってくれと姉を呼んだ。暑さゆえか、スリップ一枚の上半身にショートパンツという格好で、姉の千夏(池脇千鶴)が台所にやってきた。目を合わした達夫と千夏は、なんとなく気まずい感じになる。千夏がつくった焼き飯を食べながら、達夫はそんな千夏のことを意識しはじめた。

物語はこんな形で幕が上がる。

何度も切ろうとしたが、どうしても切れない家族の縁を持つ千夏と拓児。

ふたりは寝たきりの父と、働かずパチンコ屋で時間を過ごしている母を養うために働きに出ている。拓児は植木会社で働いているが、実はそこで世話になっている社長は千夏の愛人である。千夏は昼はイカの加工工場で勤務し、夜はスナックで働いている。スナックといっても接客をしているわけではなく、裏で体を売っているのだ。体を売りながら、愛人として植木屋社長に抱かれる日々。この植木屋社長は、ある事件で仮釈放中の身である拓児の身元保証人でもあるため、千夏はこの関係を切れないでいる。

達夫は千夏に「そんな仕事、はやく辞めろ」と窘めるが、千夏は「好きでこんな仕事をやっているわけじゃない!」と憤る。憤懣やるかたないふたりは、次第に反発し合いながらも魅かれていく。

そこのみにて光輝く

なんて暗い物語なんだろう。

なんて救いのない物語なんだろう。

ストーリーだけを読むと、おそらくそう思ってしまうでしょう。

しかし映画を見ていて、なぜだかそこまで暗い気持ちにはなりませんでした。描かれているのは明らかに底辺に属する人たちのどうしようもない物語。愛を捨てた男と、愛を諦めた女の、狂おしいまでに魅かれあう恋愛模様。他に見出す希望もなく、すがりつくようにお互いを求めあうふたり。その先に明るい未来があるようには見えません。

なのに、なぜ暗い気持ちにならないのか。

それはこのタイトルが全てを表しています。

「そこのみにて光り輝く」

捨てきれないしがらみに縛りつけられながら全てを諦めて生きてきた千夏にとって、突然目の前に現れた達夫は、私をここから連れ出してくれる天使だったのか、せっかく諦めた人生に不毛な希望を与えてきた悪魔なのか。

「その先」を描いていないこの物語から、どちらであったのかを読み取ることはできません。ただ、千夏と出逢えた達夫と、達夫に出逢えた千夏、そして達夫に救われた拓児は、その瞬間、そのときだけは、明らかに光輝いていた。きっと長く続く光ではない。おそらくスポットライトのように光を浴びれていられるのは、その瞬間、そこのみにて。

それがなんだというのか。

ふたりは末永く幸せに過ごしました。めでたしめでたし。

そんな結末が期待できないとしても、光輝く瞬間を迎えられた彼らは本当に幸せだったに違いない。彼らが光り輝くその瞬間を映画館で観ることができ、私も幸せな気持ちになれた。ただそれだけで、よかったと思う。

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